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がんばっていきまっしょい。

脚本「氷湖にて」

スリル満点、ハラハラドキドキのお話です。

 

【題材】湖

タイトル:「氷湖にて

(人物) 
福山藤治(65) 無職
福山早苗(64) 無職
通行人A
通行人B

 

○湖
   一面凍り付いた湖、福山藤治(65)と福山
   早苗(64)が公道から歩いてくる。
   福山は手バネ竿を持っている。
福山「いやぁ~誰もいないぞおい! こんな景色を独り占め、贅沢だなぁ!」
早苗「でも、誰もいないって事はやっちゃだめって事なんじゃ……」
福山「そんな事ないだろ、別にいいだろ」
早苗「またそんな事言ってぇ……。危ないから調べて人がいる所にしましょ」
福山「危ない? 危ないってなんだよ、別にワカサギ釣るだけだろ」
早苗「危ないわよ冬の北海道なんだから……」
福山「あ~いつも煩い奴だなぁ。旅先で開放感に浸るってのがわかんないのかよ。ほらバッグ持ってろ、ポイント探してくるから」
早苗「あっ」
   バッグを早苗に押しつけ歩いて行く。
早苗「全く、いつも自分ばっかりで、私の意見なんて聞いてくれないんだから……」
福山「あ? なんだって?」
早苗「なんでもない!」
福山「いやぁ、しっかし寒いなぁここ! 冬の北海道ってのはこんななんだなぁ。香も凄い所に嫁いだもんだよおい。こんな所で、どんな孫が育つかなぁ……」
早苗「…………」
福山「さみぃい!」
早苗「ねぇ、でもどうやって穴空けるの?」
福山「え?」
早苗「だって、手じゃ無理でしょ氷」
   福山、足下を見る。
福山「……ああ、そうか、ドリル……」
早苗「ドリルがいるの? ほらぁ、何も準備しないからぁ」
福山「してるだろうがこの竿」
早苗「ねぇ、もうやめた方がいいって。ね、やるなら他の所で」
福山「…………」
   福山、周囲を見回す。
福山「あっ、ほらあそこ!」
早苗「え?」
福山「あそこ穴空いてるだろ! 誰かやってたんだよ、いやぁ有り難いなぁおい!」
早苗「ちょっ!?」
   構わずに駆けていく福山。
   早苗、大きく息を吐き後を追って歩く。
早苗「定年して毎日二人きり、香もいないし、ずっとこれが続くの……?」
   早苗、立ち止まり大きく目を見開く。
早苗「あっ?!」
   福山、足下の氷が割れ湖に落ちる。
早苗「ちょっ、あなたっ!?」
   駆け出す早苗。
   福山、水から這い出ようとするが氷が割れてまた落ちる。
早苗「もう何やってるのよぉ!」
福山「ちょっ、バッ、来るなっ! 来るなっ!」
早苗「来るなじゃないでしょちょわっ?!」
   早苗、足下の氷が割れ湖に落ちる。
福山「早苗っ!」
   早苗、手をバタバタさせる。
早苗「あっ、あっ、あっ!」
福山「落ち着け、いいか落ち着けよ早苗!」
早苗「あっ……あっ…………」
福山「ゆっくり、ゆっくり氷に掴まれ、脆くなさそうな所に!」
早苗「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」
   早苗、ゆっくりと移動し氷に掴まる。
早苗「はぁああああっ、はぁあああああっ」
福山「よし、いいぞ、よくやった、よし……」
早苗「あなたぁ……」
福山「いいか、そのままだぞ、いいか!」
   早苗、大きく何度も頷く。
   福山、氷を伝いゆっくりと早苗の隣に。
   早苗、抱きつこうとする。
早苗「あああああっ!」
福山「馬鹿掴むな! 沈むだろっ!」
   早苗、ハッとして手を戻す。
早苗「人、人を……」
福山「人……」
   福山、周囲を見回す。誰もおらず、湖は木々に囲まれ公道も遠い。
福山「こりゃあ……」
早苗「誰かぁ! 誰かぁ!」
福山「…………」
早苗「誰かいませんかぁっ!」
福山「やめろ、体力がなくなる」
早苗「ええっ!?」
福山「こんなとこすぐに凍えて力がなくなる。ちょっとでも温存しろ」
早苗「でもっ、だったらどうやって……!」
福山「俺が、出る」
早苗「ええ?」
   福山、移動しつつ氷を叩いたり掴んだりする。
福山「この辺りなら……」
早苗「さっき割れてたじゃない!」
福山「今度は大丈夫だ……ふんっ!」
   福山、氷に付いた手に力を込めて体を持ち上げる。
   手元の氷が割れて湖に顔から落ちる。
早苗「あっ!」
福山「ぶはっ! くそっ!」
早苗「ちょっ、ねぇどうするのよ!」
福山「どうするって出るしかないだろ!」
早苗「割れるじゃない、どうやって出るのよ!」
福山「割れないとこ探すんだよ!」
早苗「割れないとこってどこよ!」
福山「だから探すんだよ!」
早苗「もうなんでこんな事にぃ…………」
   早苗、顔を歪めて泣き始める。
早苗「あなたが、あなたがこんなとこ……止めたのにぃ…………」
福山「…………」
早苗「だからやだって、やだって言ったのにぃ…………なんでいつもそうなのぉ? もうやだぁ……あああああ…………」
福山「…………すまん」
早苗「すまんじゃないわよ! どうするのこれ、死んじゃう、死んじゃうのにぃっ!」
   氷に突っ伏して泣きだす早苗。
   福山、俯き、呟く。
福山「人なんていない、上がるしかない……」
   福山、唇を噛む。氷を叩きながら進む。
福山「ううう……」
   震える手を見る。また進む。
   止まり、氷の上に手を付き少し体を持ち上げてみる。
福山「ここだ。早苗!」
早苗「えぇ?」
福山「ちょっと来てくれ!」
   早苗、ゆっくりと移動する。
早苗「もう、なんか、感覚が……くらくらして……人を…………人……」
福山「人なんていない……それよりほら、この辺りの氷は丈夫そうだ。湖の中心は薄いんだ、ここなら大丈夫だ……」
早苗「私、上がれない……」
福山「俺がやる……絶対やるから、助けるから、俺のせいなんだから……」
早苗「ええ……?」
福山「体力使うな、助かるものも助からなくなる。体力ないんだから、お前は……」
   福山、全身が小刻みに震えている。
   顔は青ざめ息も震えている。
   早苗の頭に手を乗せて微笑む。
福山「いつも通り、俺に任せろ」
早苗「…………藤治さん」
   福山、氷に手を付く。
福山「いくぞぉ、せぇえええええのおっ!」
   体を持ち上げ足を氷に乗せようとする。
福山「くっ、服が重いっ!」
   早苗、咄嗟に背を押す。
早苗「頑張ってぇ! 頑張ってぇえええっ!」
福山「んんんんんががあああああああっ!」
   氷に付いた腕が震える。足が持ち上がり体が氷上に上がりそうになる。
   氷上に付いた手と腕が大きく震える。
早苗「もう少しっ! もう少しっ!」
福山「ぐぅうううううううっ!」
早苗「あっ!」
   福山、右手が滑り氷に鼻を打ち付け湖に落ちる。
福山「ぶはっ! ごほっ! は、はあっ、はあっ、はあっ、はああっ!」
   氷に掴まる、鼻血が滴る。
福山「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………」
早苗「……血が」
   放心している福山。
福山「う、うう、ううううっ…………」
   涙を零し始める福山。
早苗「…………ぁ」
福山「すまん、早苗、すまん、すまん…………」
早苗「…………」
福山「うわ、ああ、あああああああ…………」
早苗「…………」
   早苗、泣きそうに微笑み、そっと寄り添い手に手を重ねる。肩に頭を乗せる。
  
   目を閉じている早苗。
通行人Aの声「おお~いっ!」
早苗「…………ん?」
通行人Bの声「誰かいるんですかぁ~っ!?」
早苗「っ?!」
   早苗、ハッとして顔を上げる。
   遠くに通行人A、Bが見える。
早苗「くっ、かっ、かはっ!」
   声を出そうとして咳き込む。
   僅かに手を掲げて振る。
早苗「はっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」     
   顔を見合わせる通行人A、B。
通行人A「やっぱ人だ!」
通行人B「すぐ、すぐ救急連絡しますからっ!」
早苗「……っ!」
   満面の笑みを浮かべる早苗。
早苗「はぁ、ははっ、はぁ、はあああああっ!」
   早苗、笑顔で隣に顔を向ける。
   背を向けて浮かんでいる福山。