開店休業

がんばっていきまっしょい。

脚本「マザー、アザー、」

一般受けするんじゃないかと思われる作品です。
絶賛された名作です。

 

【題材】親子

タイトル:「マザー、アザー、

(人物) 
丸山恵(50) 主婦
田中安江(82) 恵の母
丸山聡(52) 会社員
榊優子(55) 主婦
橘栄美(55) デイサービス職員

○丸山家・台所
   包丁を持っている田中安江(82)、ネギと豆腐がまな板に置かれている。
   丸山恵(50)が台所に入ってくる。
恵「ちょっ、お母さん何やってるのっ?!」
安江「何って、ごはん」
恵「さっき食べたでしょ!」
安江「…………えぇ?」
   恵、包丁を取り上げる。
恵「もう、いいからあっち行っててよもう!」
安江「…………はぁ?」
   首を傾げ去って行く安江。
   恵、大きく息を吐いて包丁を見つめる。

○同・居間
   入ってきて座る恵、溜め息を吐く。新聞を読んでいた丸山聡(52)が舌打ちする。
丸山「家で溜め息なんてつくんじゃない」
恵「ええっ」
丸山「俺まで疲れてくるだろうが」
恵「だってぇ、本当に疲れてるんだもん……」
丸山「何が疲れてるだいつも家にいるくせに」
恵「ちょっとぉ、そりゃずっと家にいるけど、私だって好きで家にいるわけじゃ……それにほら、お母さん」
丸山「お母さんがどうした?」
恵「ねぇ、だから知ってるでしょ? もう駄目なんだって……ねぇ、やっぱり施設に」
丸山「またその話か」
   丸山、大きく息を吐き。
丸山「そんな余裕がどこにある? 翔だって奨学金貰って大学行ってるってのに」
恵「でもこのままじゃ……さっきだって包丁触ってて」
丸山「お前が目を離すからだろ」
恵「……えぇ」
丸山「お前なぁ娘だろ? お前の母親だろうが、お前が世話してやらなくてどうすんだよ」
恵「でもぉっ」
丸山「でもも糞もあるか、お前育てて貰った恩を忘れたのか。薄情だなお前は」
恵「……そんな言い方」
丸山「何言ったって施設には入れんぞ」
恵「…………」
   外からクラクションの音が鳴り響く。
恵「…………?」
丸山「……あっ、おい!」
恵「えっ? ……あっ!」
   恵、駆け出し、玄関から飛び出す。

○同・玄関先
   狭い道路でうずくまっている安江、目の前には車、困り顔のドライバー。
恵「お母さんっ!」
   駆け寄り肩に手をかける。安江、ビクッと震えて安江の顔を見て。
安江「ひゃっ、はぁああぁぁあっ!」
   頭を抱えながら家に駆け込む。
恵「…………」
   それを見送り、泣きそうな顔の恵。

○喫茶レインボウ
   テーブルについている恵と榊優子(55)。
   優子はストローでアイスコーヒーをかき回している。
優子「なるほどねぇ、そりゃ大変だわ」
恵「でしょ?! なのにあの人何にもわかってないんだから。何が家にいて疲れただって、私だって好きで家にいるわけじゃないのに、仕事だって、本当は続けたかったのに……」
優子「いやぁ、痴呆ってホント大変だよね。どうしてあんななっちゃうのかなぁ」
恵「優子はいいよね、ご両親心配なさそうで」
優子「ん? まあうちはね、今のとこは誰も。でも一緒に暮らしてるのがよくないよね」
恵「でも母さん、あんなんで一人にさせておけなかったし……」
優子「まあ、そりゃあね。じゃあ仕方ないんじゃない? 誰かが見てあげないといけないんだし、それくらいの親孝行はね」
恵「えぇ? ちょっとぉ、今大変ねって」
優子「いやそうだけど、でも施設入れないならしょうがなくない?」
恵「そりゃ、まあ……」
優子「自分の母親だしさ、そう考えれば我慢もできるでしょ」
   アイスコーヒーを啜る優子。
恵「……結局、わかってないんじゃない」
優子「ん?」
恵「なんでもない!」

○住宅街
   安江の手を引き歩いている恵。虚ろな表情でクマが凄い。溜め息を吐く。
   人気のない踏切にさしかかる。警報器が鳴り、立ち止まる。
恵「…………」
   ぼんやりと降りる遮断機を見つめる。

○(回想)踏切前
   女Aと談笑している安江(38)、側でスーパーボールを弾ませて遊んでいる恵(6)。
恵「あっ」
   掴み損ない、踏切内に転がっていく。後を追い周囲を探す。
   警報機が鳴り、遮断機が降りる。
   探すのに夢中の恵、話に夢中の二人。
恵「あったっ」
   レールに嵌まったボールを見つけ、駆けて拾い上げる。笑顔の恵。
   鳴り響く警笛、恵、振り向く。
   電車が迫ってきている。
   恵、その場にへたりこむ。響く警笛。
   安江、ハッとして振り向く。
安江「恵っ?!」
   動けない恵、視線だけ向ける。 
   電車、急ブレーキをかけ音が鳴り響く。
   安江、地面を蹴り上げる。
安江「恵ぃっ!」
   目前まで迫った電車、恵、目を瞑る。
   恵に覆い被さる安江。
   電車、ブレーキ音を響かせすんでのところで止まる。
恵「…………お母さん?」
   恵、安江の胸から顔を離して見上げる。
安江「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
   恵を見据え、安堵の笑みを零し、
恵「あっ」
   恵をきつく抱きしめる。

○(回想終わり)踏切前
恵「…………ぅ」
   視界が歪み、膝に手を当てる恵。
栄美の声「……丸山さん?」
   振り返ると橘栄美(55)が駆けてきている。
恵「……あ、ヘルパーの」
栄美「はい、暁デイサービスの橘です。通りがかって、あの、どうかされましたか?」
恵「あ、すみません、ちょっとクラッと……」
栄美「酷い顔……ちゃんと休んでますか?」
恵「はぁ……」
   栄美、安江をチラッと見て。
栄美「安江さん、要介護3でしたっけ……」
恵「いえ、多分もう4じゃないかなと……」
栄美「進行、早いんですか?」
恵「もう、私の事もわからないみたいで……」
栄美「…………」
恵「娘なのに、忘れちゃうんですね」
栄美「認知症は、そういうものですから……」
恵「………………はい」
栄美「あの、お一人で抱えこまないで、ちゃんと周囲に助けを求めて下さいね」
   恵、ぼそりと。
恵「そう、できたらよかったんですが……」
栄美「え?」
恵「いや…………はい」
栄美「それとこれはコツみたいなものですが、あまり母だ子だと思わないで、いっそ他人くらいに思ってしまった方がいいですよ」
恵「え、他人、ですか?」
栄美「ええ、いるんです、親子だからって頑張り過ぎて介護鬱になってしまう人が。周囲も親ならやって当然と思いますし、それで本人も次第に追い詰められて……。だからあんまり親だなんだと考え過ぎないで、自分のできる範囲でやりましょう。いいじゃないですかちょっとくらい手を抜いても、それで周りに迷惑をかけても、ね」
恵「……他人、ですか」
栄美「まずはご自身の幸せですよ。……では」
   会釈をして立ち去る。恵も会釈を返す。
恵「…………」
   ぼんやりしている恵。
恵「…………他人」
   警報機が鳴り、降り始める遮断機。
   恵、大きく息を吐き、振り返る。
   安江が踏切に侵入している。
恵「ちょっ?!」
   迫ってきている電車、響き渡る警笛。
恵「おか、お母さんっ! お母さんっ!」
   安江、ゆっくりと振り向く。電車に気がついてへたりこんでしまう。
恵「ちょっ!」
   手を伸ばし、足を踏み出す。しかし立ち止まり、固まる。
恵「………………他人」
   急ブレーキをかける電車。
   安江、不意に恵を見つめる。   

   ×  ×  ×
   (フラッシュ)
   線路内、安江に抱かれた恵。安江を見上げる。安堵の笑みを零す安江。
   ×  ×  ×
恵「っ!」
   遮断機を押しのけ安江に覆い被さる。
   ブレーキ音が響き、すんでで止まる。
恵「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
   ぽかんとしている安江、恵を見上げる。
   恵、次第に顔が歪み、涙を浮かべ。
恵「ばかっ、お母さん、お母さん…………っ!」
   きつく抱きしめ、顔をうずめる。