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がんばっていきまっしょい。

脚本「ともだちの帽子」

 

「お見事です」 との感想を頂いた作品。ハートウォーミングな名作である。

 

【題材】帽子

 

タイトル:「ともだちの帽子

 

(人物)

春日彗(9) 小学三年生
木下俊(9) 小学三年生
春日拓人(39) 証券会社勤務
春日優奈(39) 靴製造業パート

 

 

○土手下(夕)
   草が生い茂る中を歩いている春日彗(9)と木下俊(9)、木下はNYロゴのヤンキース帽子を被っている。
   春日が興奮して前方を指差す。
春日「あっ! あっ!」
   木下も見る、大きなカマキリがいる。
春日「ちょっ、何かある?」
木下「えっ、何もないよ」
春日「その帽子は?」
木下「え、これ? いや、これはやだよ……」
春日「なんでっ! いいじゃん早くっ!」
木下「ええ…………」
春日「あっ!」
   カマキリが飛ぶ。春日は後を追う。
春日「ちょっ、早く早くっ!」
木下「いやだよぉ……」
春日「あ~もういいやっ!」
   春日、静かに近づき手を伸ばす。
   カマキリが小幅に飛ぶ。
春日「あっ、あっ、ちょっ!」
木下「あっ!」
   春日、咄嗟に木下の帽子をかっ攫いカマキリに覆い被せる。
春日「やった!」
木下「…………」
春日「おっしゃ! ほら、捕まえた!」
木下「…………」
春日「ちょっとここで待っててくれな、俺すぐ虫籠取ってくるから!」
木下「え? あっ!」
   駆けていく春日、見送る木下。
   木下は無言で帽子を見つめる。

 

○土手下(夜)
   帽子の側で立っている木下、虫籠を手に駆けてくる春日。
春日「俊、まだいるよな?」
木下「……たぶん」
春日「よしよしよしっ」
   ゆっくりと帽子を捲り上げる春日。
   カマキリを摘まんで籠に入れる。
春日「しゃ~っ、ほら見ろよこれ! こんなでかいのめったにいないぞ!」
   ムスッとしている木下。
春日「ん? どうしたんだ?」
木下「僕の帽子……」
春日「あ、ごめん。ほら」
   拾い上げて木下に差し出す。
木下「……いらない」
春日「は?」
木下「もうその帽子、いらない」
春日「……何言ってんだ?」
木下「どうして僕の帽子使うの? 嫌だって言ったじゃん!」
春日「だってそれはお前……しょうがないだろカマキリが」
木下「嫌だって言ったじゃん! なんで勝手に使うんだよぉ!」
春日「お、怒るなよ」
木下「なんで勝手に使うんだよぉ!」
春日「なんでって……いいだろ帽子くらい。それにこれ俺があげたやつじゃん」
木下「知らないよ! 知らない知らない! うっ、ううう…………っ」
春日「え、おいなんで泣くんだよ! ほら」
木下「もういいよ! いらないってばぁっ!」
春日「あっ」
   駆けていく木下、呆然と見送る春日。

 

○春日家・リビング(夜)
   食卓を囲んでいる彗と春日拓人(39)と春日優奈(39)。
拓人「それはお前が悪い」
彗「えぇ~なんでぇ」
拓人「気に入ってた帽子だったんだろ」
彗「でもあれ俺があげたやつだよ」
優奈「むしろだからじゃないの? 貰って嬉しかったのにあんたに雑に扱われたから」
彗「えぇ~、なにそれ」
優奈「彗だってプレゼントをまさにその人にぐちゃぐちゃにして返されたら嫌な気持ちになるでしょ」
彗「でも、だってカマキリが……」
優奈「いいから、明日謝っておきなさい」
彗「ううん、も~っ」
   彗の頭をポンポンと撫でる優奈。
   彗はむくれたままご飯を頬張る。

 

○市立第三小学校・三年二組教室
   春日が入ってきて自席に着く。
   窓際の席の木下の背中を見る。
春日「……よし」
   帽子を手に木下の元へと向かう。
春日「俊」
   木下は窓の方を向いて顔を向けない。
春日「俊、昨日は悪かったよ。ほら、洗ってきたからさ、受け取ってくれよ」
木下「…………」
春日「なあ、俺が悪かったよ。なんならカマキリ持ってってもいいからさ、でももし子供産んだら欲しいけど……ほら、帽子」
   グイグイと帽子を押しつける春日。
   木下に払いのけられる。
木下「いらないって言ったでしょ」
春日「……なあ、謝ってるのにそれはないんじゃないか? なんだよ帽子くらいで」
木下「帽子くらい?」
   木下、立ち上がり春日を睨む。
木下「帽子くらいって何さ。僕の帽子だよ」
春日「でも元は俺があげたやつだろ」
木下「でも今は僕のじゃないか!」
春日「だから返すって言ってるだろ、ほら!」
木下「もういらないってば!」
春日「あっ」
   木下、手を払い帽子は床に落ちる。
   春日、帽子を拾い上げて、
春日「あ~そうですか! もういいよっ!」
   春日、廊下へと出て行く。木下、腰を下ろして机に突っ伏す。
   呆然としているクラスメート達。

 

○春日家・リビング(夜)
   食卓を囲んでいる彗と拓人と優奈。
拓人「彗、友達にちゃんと謝ったのか?」
彗「……謝ったよ」
優奈「どうしたの?」
彗「謝ったけど、許して貰えなかったんだよ!ごちそうさま!」
   食器をシンクに置いて部屋を出て彗、二階に上がる足音が響く。
   二人は顔を見合わせる。

 

○土手上(夕)
   ランドセル姿の春日が道路側から階段を上り土手上の道へ出ると買い物袋を抱えた木下と遭遇する。木下は帽子を被っており傘も持っている。
春日「あ」
木下「あ」
   目が合うが、すぐにお互いに外す。
   木下が歩き出し、少し遅れて春日がその後に続く。
   強風が吹き、草木が揺れ川が波打っている。グラウンドには水溜まりがある。
   木下は帽子を手で押さえる。
   無言で歩く二人。
春日「んっ」
   突風が吹き、春日は目を瞑る。
木下「あっ!」
   春日の横を帽子が転がっていく。
木下「あっ、あっ、」
   木下、帽子を追いかけて春日の横を駆けていく。帽子は土手を転がり落ちる。
   木下、土手の坂を駆け下りる。
木下「うっ!」
   濡れた草に足を滑らせて尻餅を付く。
木下「あ、ああ……」
   帽子はグラウンドの方へ飛ばされる。
木下「えっ?」
   春日、木下の横を駆け降りていく。
木下「…………彗君」
春日「ほっ!」
   春日、転がる帽子に手を伸ばす。が、寸でのところで届かない。
春日「あ~ちくしょっ!」
   帽子を追いかけて走りながら前のめりになってまた手を伸ばす。
春日「ぅおっ?!」
   ぬかるんだグラウンドに足を滑らせて前のめりに倒れる春日。   
   帽子は飛んで川に落ちる。
春日「あ~…………」
木下「ちょっ、彗君!」
   木下、慌てて駆けてくる。
木下「ちょっ、何やってるのっ?!」
   起き上がる春日に手を貸す木下。
春日「何って、お前帽子が」
木下「でも、だって僕らは……」
春日「んなの関係ないだろ、帽子が飛んでっちゃったんだから」
木下「…………うん」
   春日、自分の泥だらけの服を見て、
春日「あ~、母ちゃん怒るよなあこれ……」
木下「僕も一緒に謝るよ。僕のせいだもん」
春日「え、いいの? おおサンキュー!」
木下「サンキューなんて……」
   二人は川に浮かぶ帽子を見る。
春日「もうちょっとだったんだけどなぁ」
木下「いいよ帽子くらい……ごめんね……あ りがとう」
春日「ん? ああ…………あっ!」
   春日、ランドセルからNY帽子を取り出して差し出す。
春日「ほら、これ」
木下「…………帽子」
春日「まあだからさ……代りに使ってくれよ」
木下「…………っ!」
   満面の笑みになって受け取る木下。
   夕焼けを背に照れ臭そうに頭を掻く春日。