開店休業

がんばっていきまっしょい。

脚本「ALL YOU NEED IS HATE」

絶賛?された作品です。

 

【題材】憎しみ

タイトル:(アニメーション)ALL YOU NEED IS HATE

 

(人物) 
雉A
雉B 
老人の男(72)

 

 

○山
   緑豊かな山の遠景。

○山小屋・庭
   姦しい蝉の鳴き声。
   小屋の庭に四メートル四方、高さ二メートル程の金網ゲージがあり、その中で雉Aが外を眺めてぼんやりしている。
   老人の男(72)が猟銃と兎を手に森から歩いてくる。靴の泥を落とし小屋に入る。
   雉A、溜め息を吐く。
雉A「あっ」
   雉Bが飛んできて側の木に留まる。
   雉Bと目が合い、笑顔で飛んでくる。
雉B「やあ」
雉A「……やあ」
雉B「こんな所で何をしているんだい?」
雉A「何って、見てわからない? ここで暮らしているんだよ」
雉B「え、こんな所で?」
雉A「そう、もうずうっとね」
雉B「へぇ……」
雉A「ところで君、こんな所へ来てはいけないよ。誰にも聞かなかったの?」
雉B「え、どういう事?」
雉A「ここにはね、とても恐ろしい老人が住んでいるんだよ。銃で動物を撃って食べるんだ。今に君も打ち落とされてしまうよ」
雉B「え、本当に?」
雉A「うん、だから君もすぐに離れた方がいいよ。……とは言っても、もう目も衰えて前みたいにはいかないみたいだけどね」
雉B「なんだ、なら大丈夫だよ。僕は風より早く飛ぶ事ができるからね」
雉A「でも、さっきも兎が」
雉B「大丈夫、当たりっこないから」
雉A「……凄い自信だね」
雉B「君は……どうやら飛ぶのはあまり得意ではなさそうだね」
   雉B、雉Aをじっくりと見る。
   でっぷりと肥えた雉Aの体。
雉A「ああ、それはそうだよ。なにせ僕は空を飛んだ事がないからね」
雉B「空を、飛んだ事がない?」
雉A「うん、言ったろうずっとここにいるって。僕はこの網の向こうへは行った事がないんだ。だから飛べないし、こんなにも太ってしまった」
雉B「どうしてここにいるの? 君はその老人と暮らしているのかい?」
雉A「まさか。僕は食べられる為にここにいるんだよ」
雉B「えっ?!」
雉A「僕はその為に産まれてきたんだ。産まれてすぐには親もここにいたと記憶しているよ。でもいつの間にかいなくなってしまっていたから、きっと食べられてしまったんだね。僕もこんなに太ってしまったから もうそろそろなんじゃないかなぁ。せめて何か特別な日に食べてもらいたいね」
雉B「……そんな」
雉A「君が羨ましいよ、自由に空を飛び回れて。ねぇ、空を飛ぶって気持ちがいい?」
雉B「ああ、うん! それはもちろん! だってこの翼はその為にあるんだからね」
雉A「そうかぁ……」
   雉A、自分の羽を見て僅かにはためかせてみる。
雉A「ねえ、ちょっとだけさ、ちょっとだけ飛んでみせてみてくれない?」
雉B「うん、もちろん!」
   雉B、羽ばたいて高い木に留まる。雉Aを見て微笑む。
   そして高く舞い上がり、旋回する。
雉A「んっ!」
   太陽に目を細める雉A。
   ゆっくりと旋回する雉B。
雉A「…………うわぁ」
   雉B、降りてくる。  
雉B「どうだった?」
雉A「……はあ」
雉B「……どうしたの?」
雉A「溜め息しか出ないよ」
雉B「ハハッ、いつもはそんなに高くは飛ばないんだけどね。君も……ここから出られたらいいんだけど」
雉A「僕の事はいいよ。ねえ、それよりも……あの、また、会いに来てくれる?」
雉B「えっ?」
雉A「あっ、でも危ないからやっぱり」
雉B「ううんっ、また来るよ!」
雉A「……本当に?」
雉B「何言ってるんだよ、僕達もう、友達じゃないか」
雉A「…………っ!」
   パアアッと笑みが広がる。
雉A「ねえねえ、外の話を聞かせてよ!」
雉B「もちろん!」
   金網越しに話し込む二羽。
   大げさな身振りで得意げな雉Bに嬉しそうな雉A。

 

○山小屋・庭
   周囲は紅葉に色づいている。空高く旋回する雉Bとそれを笑顔で眺める雉A。

 

○山小屋・庭
   周囲は雪化粧、雪がちらつく中を空高く旋回する雉Bとぼんやり眺める雉A。

 

○山小屋・庭
   周囲は鮮やかな緑、青空高く旋回する雉Bと睨む様に見つめている雉A。
   雉A、笑顔で降りてくる。
雉B「やあ、今日は気持ちのいい空だよ」
雉A「…………うん」
雉B「ん? どうしたんだい?」
雉A「君は……どうして僕の所来る前にいつも空を回ってみせるの?」
雉B「えっ? 何故って……だって言っていたじゃないか、空を飛ぶところが見たいって。だから」
雉A「あれはあの時だけの話でしょ。何回も見せて欲しいなんて言っていないよ」
雉B「……え?」
雉A「あっ、それともわざとなの? わざと僕に見せつけているの? ……そうか、そうなんだ。君は、僕を空から見て笑っていたんだね。よくもまあそんな意地の悪い事ができるものだ」
雉B「ちょ、ちょっと待って! 僕は」
雉A「もうやめてくれ! 僕は見たくないんだ! 誰が自由を見たいんだここから! 君には僕の気持ちがわからないのか!」
雉B「そんな……」
   雉A、睨み付けて。
雉A「不公平だこんなの! 僕だって飛び回りたいのに、大空へ羽ばたきたいのに!」
雉B「っ!」
   雉B、目を大きく見開く。
   雉A、激しく息を切らしている。
   雉B、項垂れて。
雉B「ごめん……そんなつもりじゃ……」
雉A「同情なんていらない! いいからもう来ないでくれ! 僕が辛くなるだろう!」
雉B「…………っ」
   雉B、顔を上げるがまた下げて。
雉B「また、来るよ」
   飛び去る。
雉A「……うぅがぁああああああああっ!」
   雉A、必死に羽ばたき金網に突っ込む。
   天井ではばたくが力尽き落ちる。
雉A「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
   泥にまみれて雉Bの去った方角を睨む。
雉A「君も、落ちてしまえばいい。」

 

○山小屋・庭(夜)
   金網の中の雉A、小屋の側面の窓が開いており、中で老人が包丁を手に座るのが見える。研ぐ音が響き始める。


○山小屋・中(夜)
   柔和な笑みを浮かべ嬉しそうに包丁を研いでいる老人。
老人「まさか、こんな所まで来てくれるとはなぁ。嬉しい事だ、大きくなっただろうか」
   汗を垂らして研ぎ続ける。

 

○山小屋・庭(夜)
   包丁が研がれる音を聞きながら光漏れる窓を眺めている雉A。

 

○山小屋・庭
   雉A、金網の中からぼんやりと空を眺めている。
雉A「うん……?」
   小さな点が見える。
   次第に大きくなり雉Bだとわかる。
雉A「なんで来るんだ、あれだけ言ったのに」
   睨み付ける。雉B、側の木に留まる。
   雉Aの視線に気がつき微笑み、再び飛び立つ。
   ターンッ! と響き渡る銃声。
雉A「あっ!?」
   地に落ちる雉B。
   茂みの中から猟銃を手にした老人がやってきて雉Bを掴み上げる。
老人「ついてるなぁ、こんな日に」
   老人、小屋の中に入る。
雉A「……プッ、ププッ、プププププッ!」
   雉A、体を震わせる。
雉A「プハハハハハハハハハッ!」
   羽ばたいて動き回る。
雉A「落ちた! 落ちてしまった! だから言ったんだ来なくていいって! 僕は言った! 言ったんだ! なのに来るから! あ~あ、ざまあみろ! 食べられてしまうんだ! 君だって食べられてしまうんだ! 僕みたいに!」
   雉Aの後ろ、ゲージの向こう側に包丁を手にした老人の姿。