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開店休業

趣味の徒然うつらつら(2016年他ブログより移転)

即興

僕らがまだ死体だった頃、彼女はまだ生きていた。

僕らが生き返ると彼女は死んで、死んでしまってからしばらく待ってみたが生き返らなかったので旅に出た。

戻ってきたら彼女は生き返っていて、僕らにはまた死の時期が迫っていた。

どこまでいってもすれ違う、僕らの生が交わることはない。

「どうしてこうなってしまうんだろう」

僕の嘆きを聞いて、彼女はそっと僕の手を握った。

「でも、あなたが待っていると思えるからわたしは安心して土に還ることができるの」

「悲しいね、僕は君と一緒に生きたいのに」

「いつかできるわよ、きっと、きっと」

そう言って彼女は眠りについた。それがおよそ600年前のことだ。

そろそろ僕らの死の時期が近づいてきた。体が動かなくなり、視界がぼやけてきた。

倒れ伏し、みんなに声をかけた。

「今回は、まだ彼女に会えていないんだ」

それを皆は悲しがり、もちろん僕も悲しがり、再びの再開を夢見て僕は死の底に沈んでいった。

それから何億回もの生を繰り返し、けれど僕は彼女に会うことはできなかった。

思いもしなかった、あの出逢いは、奇跡でしかなかったんだということを。

どうして僕は、そのことに思いもよらなかったんだろう。

会えている最中には気がつけなかった、けれどあの邂逅は奇跡であって、奇跡以外の何者でもなかった。

今ではもう、出会えたとしてもきっと僕は彼女だと思い出すことはできないだろう。

数多の生を繰り返し、何者かになってしまった彼女の、その残り香を、面影を、読み取ることはできないだろう。

彼女もまたそうにちがいない、僕らはもう、お互いを認識することすらできなくなってしまった。

煌々と照らし出す月を見上げる。とうに滅びた地上には、今は僕しかいなくなってしまった。

仲間達もいつのまにか生まれなくなって、いや、もしかしたら僕が彼らと認識することができなくなってしまったのかもしれない。

こうなってしまうのなら、生まれて来たくなんてなかった。

ひとりぼっちは、さみしい。

さざ波一つ立たない海に身を浸す。このまま沈んで朽ち果てて、もう生まれて来たくなんてない。

首まで浸かり、頭を沈めた。そして地の底へと沈んでいく。

------?

と、向こうでキラリと光るものが見えた。

ぼんやりと頭を起こし、その場所へと向った。

そこには光る石ころが置かれていた。

ああ、と思った。うっすらとおぼえている、この石ころは、僕が初めて彼女に出会ったときに、彼女にプレゼントしたものだ。

あれはいつだったか、まだ石器を扱っていた時代だったか、その前だったか。

もう思い出せないけれど、まちがいはなかった。ということは、この場所は、彼女と初めて出会った場所なのか。

「…………」

思い出が、溢れてきた。忘れてしまった、消え失せてしまった思い出が、溢れて止まらず、止めどもなく涙が溢れてくる。

最初、自分がどういう状態に置かれているのかがわからなかった。けれどやがて思いだして、ああ、僕は泣いているんだな、とわかった。それすら摩耗していた。泣くなんて、少なくとも数万回の生のうちではなかったはずだ。

胸が締め付けられるように苦しくて、でも温かな涙が心地良く、僕は、笑った。

誰もいない地上で、笑った。

-----繰り返す生の中で、僕はまた彼女を忘れてしまうのかもしれない。

彼女と出会うことはできないのかもしれない。

けれど、と思う。

けれど、僕はまた彼女を探そう。

この魂が、滅びるまで。