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開店休業

趣味の徒然うつらつら(2016年他ブログより移転)

文章

「               」
 あのとき彼がなにを言おうとしたのか、それは僕にはわからない。けれど、本当に彼は僕に何かを伝えようとしていたのだろうか? たぶん、彼は僕のことを嫌っていたと思うんだけれど。
 あのとき彼がピザを頬張ってさえいなければ、僕はそれを聞き取ることができたのに。そして、それが本当に僕に向けたものだったのか知ることができたのに。
 彼はあのときピザなんか食べるべきじゃなかったんだ。僕は強くそう思う。
「ねぇ、そこでなにをしているの?」
「え?」振り返ると彼女はボリボリとふりかけをむさぼっていた。
 ……ふりかけ?
「君は、何者なの? なぜ立ち入り禁止の屋上にいるの?」少女が短いスカートを風にはためかせながら聞いた。太ももがチラリとのぞく。きれいだ。
「えーと……」僕は答えに窮してしまった。彼女は電波さんなのだろうか? 言葉を紡ぐ。「僕は地球人だよ」
「へぇ、なら未来人なんだ」彼女はおもむろに服を脱ぎ始めた。んっしょ、んっしょ。えへへと笑って額に汗を浮かべている。「なにか重大なことをわたしに伝えに来たんでしょう?」
「ちがうよ」と僕は言った。やっぱり彼女は電波さんのようだ。これはとても痛ましいことだ。「ねぇ、服なんて脱がないでよ。見ていられないよ」
「どうして? わたしに興味がないの?」彼女はきょとんしてブラジャーのホックに手をかけた。
「いや、そんなことはないけれど……」むしろその逆で、白状すると、彼女は僕の初恋の相手なのだった。
 だから、
「わたし、とっても火照っているの」と彼女は言った。
「あっ」
 ブラジャーがぱさりと落ちて、ピンク色の乳首が露わになった。なんて美しいんだろう、赤い果実を口に含んでしまいたくなる。
「ねぇ、この火照りを静めるにはどうしたらいいの?」
 真剣な面持ちで聞いてきたので、僕も真剣に答えた。
「セックスするといいよ。でも、僕以外の人とね」
「セックスかぁ」と彼女は言った。小さな膨らみが揺れた。肌はしっとりと湿り、鎖骨がてかっている。「私、あんまり得意じゃないんだけど、それでもしないとだめなのかなぁ? あ、お口なら少しは自信があるよ、でも、お口じゃ静まらないんだよね?」
 彼女のみぞおちがぺこぺこと上下する。はあはあと息が荒い。肋骨が浮き出て彼女の華奢な体を浮き彫りにしている。僕は肋骨フェチなのだ。
「それなら、水風呂にでも入ってみればいいかもね」僕は言ってから少し後悔した。そんなことをしても無駄なのだ。むしろもっと火照ってしまう。でも、彼女が他の男とセックスをするというのも許し難い。
 どうしてこんなことになってしまうのだろう。
「やっぱりわたし、キミとがいいな」と彼女は言った。「だってわたし、キミのこと好きだったみたいだから」
「このセックスマシーンが!!!!!」僕は怒鳴った。ここは怒鳴るべき場面なのだ。「お前みたいなビッチなど眼中ないわ!!失せろ豚が!!!」
「…………」彼女はうなだれてしまった。「………………ごめんね」
「うん」と僕は言った。僕も申し訳なかった。「僕の方こそ、ごめんね」
 うん、と彼女は頷いた。そして柵を昇り始めた。
「でも、申し訳ないから」
 そう言って彼女は天辺でこちらを降り向いた。まぶたが震え、瞳が濡れていた。
 儚げに微笑んで、言った。
「バイバイ」
「あっ」
 ドンッ
 力強く太鼓を叩いたような音が響き渡り、その後に静寂が訪れた。
「…………」
 灰色の空から風は強く吹いていて、僕の膝は震えていた。
 もしかして、彼女は最初からそのつもりでここに来たのだろうか?
 ……いや、たとえそうだったとしても、僕はこの記憶を留めておくだけだ。
 もう行こう、ここに残っていても仕方がない。

 僕は町を出る決意を固めた。