開店休業

がんばっていきまっしょい。

脚本「正常位」

 タイトルがとても良いと誉められました。ビビッときたなら読んで損はないと思います。登場人物名に他意はありません。(内輪向け発言)

 あとカクヨムの日帰りファンタジー短編コンテストに応募したので、よろしければぜひ。

kakuyomu.jp

 

【題材】盗む

タイトル:「正常位

(人物) 
橋本洋介(30) 工場アルバイト
相原恵(25) 会社員
町田智(26) 恵の恋人
貴宮(あてみや)忍(20) 無職
主婦A
主婦B
 

〇アパートエスポワール二階廊下・橋本宅前
   ドアが開き橋本洋介(30)が出てくる。同じタイミングで隣室のドアが開き相原恵(25)が出て来る。
橋本「あっ」
恵「え?」
橋本「ど、どうも……っ!」
恵「……はぁ」
   僅かにお辞儀をして階段を降りていく。
橋本「フッ、フフッ、フフフフッ……!」
   その背中を見送り笑みを抑えきれない。

〇アパートエスポワール前・道路
   歩いている橋本、ふと二階を見上げる。
橋本「あ、また!」
   ベランダの洗濯物に女性物の下着。
橋本「相原さんあんな無防備に……あれじゃ盗ってくれって言ってるようなもんじゃないか、もう………………」
   ジイッと見つめる。
橋本「…………ごくっ」
   喉が鳴り、首を振って歩き出す。

〇アパートエスポワール前・道路(夜)
   猫背で疲れた様子で歩いてくる橋本。
橋本「……ん?」
   落ちている女性物のパンツに気が付く。
橋本「これって……」
   ベランダを見上げる。
橋本「相原さんのだ……落ちちゃったんだ」
   パンツを見つめる。
橋本「…………ええいっ!」
   拾い上げる。
橋本「どうしよ、これ……」

〇アパートエスポワール・廊下(夜)
   階段を上がり廊下に出る橋本。
   恵宅のドアが開き恵が出てくる。
恵「あっ?!」
橋本「あ」
恵「ちょっ、それっ、それそれっ!」
橋本「あっ、いや、あっ、これはですねっ」
恵「ねぇやっぱりそうだったよ、ねえ!」
   家の中に呼びかける恵。
   恵宅から町田智(26)が出てくる。
町田「やっぱりか」
橋本「……え?」
恵「ほらねだから言ったでしょ。前からずっと私を見てたんだから」
町田「おい、お前何盗ってんだよ」
橋本「いや、ちょっ、あのこれは拾ってっ」
町田「嘘吐くんじゃねぇよお前!」
   胸ぐらを掴む。
橋本「ヒッ?!」
町田「恵が! どんだけ怖がって傷ついたかわかってんのかっ?!」
橋本「いや、だ、だから僕は、ちが……」
恵「うっ、ううううううっ……」
町田「泣くな恵、ちゃんと犯人わかってよかったじゃねぇか、な?」
   恵の肩を抱く町田。寄り添う恵。
橋本「あっ、お二人は、付き合って……」
町田「おい、今から警察呼ぶからな」
橋本「え?! いやだから話を、僕は拾ってっ」
町田「カーッまだしらばっくれんのかよ!」
橋本「ちょっ、待って、待って下さい! バイトクビになっちゃいますよぉっ!」
町田「知るかよ! 警察呼ばないと恵も安心できないだろうが!」
橋本「いや、でも僕は…………」
町田「どうしても呼ばれたくないってのか?」
橋本「やっと、続けられそうなのに……」
町田「なら、二十万だ」
橋本「……え」
町田「手打ち金だよ。わかったよ、そんなに警察嫌だってんなら俺らも鬼じゃねぇ、金で誠意を見せてくれればそれでいいよ」
橋本「え、何で、二十万なんて、だって僕は」
町田「じゃあ呼ぶか、ええ?!」
橋本「…………それは」
   唇を強く噛み、泣きそうに俯く。

〇公園
   ベンチに座っている橋本と貴宮(あてみや)忍(20)。
貴宮「成程、橋本さんの暗い顔の訳にはそんな理由があったのですか」
橋本「……うん」
貴宮「災難でしたね、冤罪なのに」
橋本「はぁ、どうしてこう運がないんだろう」
貴宮「……でも、本当に運ですかね」
橋本「……え?」
貴宮「全ては、仕組まれていたのでは」
橋本「それは、どういう」
貴宮「橋本さんは、ハメられたんです」
橋本「……いや、まさか」
貴宮「傍から聞く分には、そう思えます」
橋本「いや、いやいやっ、だって相原さんは清楚で可憐で、とても人を騙すようには」
貴宮「でもそれは橋本さんが作り上げた彼女です。橋本さんは彼女とまともに話もした事がない、そうでしょう?」
橋本「それは……」
貴宮「本当のその人なんてわからないものです。誰しもが皮を被って生きていますから」
橋本「皮を……?」
貴宮「お金は、払ってしまったのですか?」
橋本「うん、だって払わないと、バイト先に知られちゃうし……」
貴宮「そうですか。橋本さんは貴重な生活費二十万円を、彼女に騙し盗られてしまったのですね」
橋本「…………」
貴宮「そうは思いませんか?」
橋本「いや、そう、そうだよね……確かにアレは、出来過ぎていた……信じたくなんてないけど、アレは、アレは…………」
   強く拳を握り、振る。
橋本「糞ッ! 糞糞糞ッ! 良い子だなって思ってたのにっ! 糞がッ!」
貴宮「ねぇ、橋本さん」
   そっと耳打ちする。
貴宮「なら、本当に盗んでしまえばいい」
   ギョッとして顔を離す橋本。
貴宮「興味があったのでしょう?」
橋本「いや、君は何をっ?!」
貴宮「何、相手は屑です、何の遠慮もいりません。二十万も渡しているのですから、下着の一枚や二枚、バチは当たりません」
橋本「いや、だからって俺はそんな事する人間じゃ!」
貴宮「それに、「犯人は僕じゃなかった」と言えるじゃないですか。だってそうでしょう? 誰もお金まで渡して逃れた橋本さんが本当に盗むだなんて思わない。そうしたら「犯人は僕じゃない、他にいたんだ」と無罪を主張できるじゃないですか」
橋本「…………無罪を、主張……」
貴宮「勿論橋本さん次第です。でも、長い目で見れば彼女にとっても恐い思いをして、罪の罰を受けておいた方がよいと僕は思いますが…………」
   貴宮、立ち上がり会釈をして去る。
橋本「…………」
   項垂れる。しかし顔を上げ前を見据え、
橋本「っ!」
   強く拳を握る。

〇アパートエスポワール・橋本宅(夜)
   激しく息を切らして座っている橋本。
   目の前には女性物のブラとパンツ。
橋本「ふ、ふふ……懲りずに干してやがって、やっぱり盗まれたなんてブラフだったんじゃねぇか……怖がってたら干せるわけねぇもんなぁっ!」
   震える手でパンツを握り顔に近づける。
橋本「すぅっ、スゥウウウウウウッン…………ゴホッ、ゴホッ! ゴホッゴホッ!」 
   ブラの両方の膨らみを掴んで。
橋本「ハ、ハハッ、やった、やっちまった! ざまあみろ! 人を騙しやがって、てっきり清純な子だとばっかり思ってたけど、あの糞彼氏毎日ヤリまくってるんだろうが、フ、フヒ、フヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!」
   下着に顔を埋め満面の笑みを浮べる。

〇公園
   ベンチに座っている橋本と貴宮。
   橋本は震えている。
橋本「す、凄いスリルだった……! あ、はは、あの快感、あ、ああ、たまんない……」
貴宮「落ち着いて下さい、橋本さん」
橋本「ふ、震えが止まらないんだ、あ、ああ、あああ………」
貴宮「フフ、橋本さん、今凄くいい顔をしていますよ。活き活きとして、普段余程自分を押し殺して生きてらっしゃったんですね」
橋本「フ、フフッ……」
   満面の笑みで貴宮を見る。
貴宮「いいじゃないですか、自分を解放する事も時には必要です。閉塞感に、押し潰されないように」
橋本「……そ、そうだよね、フ、フフッ、フフフフフッ!」
   震えて笑う橋本、微笑する貴宮。

〇公園(夕)
   ベンチに座っている貴宮。
   主婦A、Bが通りかかる。
主婦A「ねえ知ってる? 最近下着ドロが凄い流行ってるんだって」
主婦B「知ってる知ってる、私の知り合いのうちもやられたって」
主婦A「気を付けないと、気持ち悪いよね」
主婦B「ホントホント、ゾッとしちゃう」
   去って行く主婦A、B。
貴宮「…………」
   立ち上がる。
貴宮「誰が、「俺はそんな事する人間じゃない」んでしょうねぇ……」
   貴宮、薄く笑い、歩き出す。

脚本「おばあちゃんのプレゼント」

初期?に書いたんですが、これを書けた事はけっこう自信になりました。
感動しました、とのお言葉を頂きました。

 

あと引き続きカクヨムに小説をアップしております。
現在は処女作にしてどこぞの奨励賞相当受賞作をアップしております。
よろしければぜひ。(雨が降ってる。というやつです。)

 

小説(あしなむ) - カクヨム

 

 

【題材】 一年間

 タイトル:「おばあちゃんのプレゼント

 

(人物)

関学(9) 小学三年生
関靖(45) 会社員
関香奈(39) 主婦 
関文子(81) 靖の母
近藤美姫(9) 小学三年生
鈴木達也(9) 小学三年生
斉藤哲(8) 小学三年生

 

 

〇関文子宅・縁側
   蝉がかしましく鳴いている。
   縁側に座り庭を眺めている関学(9)と居間でスイカを食べている関香奈(39)と関靖(45)。
香奈「学、スイカ食べなさいよ」
学「…………」
香奈「せっかくお婆ちゃんが買ってきてくれたんでしょ、あんたが食べたいって言い出したんだからね!」
学「…………」
香奈「学! 返事くらいしなさい!」
学「……いらない」
関「お前いい加減ふて腐れるのやめろよ」
学「いらない、食べたくない!」
関「お前なぁ……」
学「ねえねえ買ってよぉ! なんで買ってくれないの? 皆持ってるんだよ、僕だけ持ってないなんておかしいじゃん!」
香奈「おかしくないでしょ。それに欲しければ自分で買いなさいよ」
学「だってぇ、お小遣い使っちゃったし……」
香奈「なら誕生日まで待てばいいでしょ」
学「誕生日は冬でしょ! 今は夏だよ夏!」
香奈「知らないわよそんなの……」
関「学、お前気持ちはわかるけどもうちょっと成長しろよ。我慢しろ我慢」
学「ううううううっ!」
香奈「ほら、スイカ」
学「いらないっ!」
   そっぽを向く学、関文子(80)が居間に入ってくる。
文子「スイカ、おいしいべ」
香奈「あ、お母さん……。それがこの子ちょっとふて腐れちゃってて……」
文子「え?」
香奈「すみません折角用意して下さったのに」
文子「さっきのゲームのことかい?」
香奈「はい、デパートで見てからこうで」
関「いいんだよ母ちゃん、放っとけば」
文子「学、そんなにそのゲーム欲しいんけ」
学「…………」
文子「学」
香奈「ほら返事くらいしなさい!」
   文子は笑みを浮かべ、バッグから小包を取り出す。
文子「ほら、おばあちゃんからプレゼント」
学「…………」
香奈「あ、お母さん……」
文子「いいからいいから、年金入ったから」
学「あっ、あっ、あっ…………」
   身を乗り出して受け取る学、頷く文子。
学「ありがとうおばあちゃん!」
関「ほんと甘いな母ちゃんは」
   学は嬉々として包装を破いていく。
文子「いいんだよ、かわいい孫の笑顔が見たいんだから」
学「あっ!」
   三人は振り向く。
学「これ違う!」
文子「え?」
学「これ違うよ、僕が欲しかったのこれじゃない! これ前作だもん、違うよ!」
文子「え、だってさっきこれ欲しいって」
学「違うよ、これの最新作、これじゃないの! こんなのもう誰もやってないよ!」
文子「あ、そうなの……。ごめんね、お婆ちゃん間違えちゃってたんだね…………」
関「母ちゃん、レシートある?」
文子「捨てちゃったけど、大丈夫かねぇ……」
関「まあとりあえず行って……あ、バカ学っ」
   学は包装ビニールを破き説明書を取りだしていた。
学「ほらぁ、見てここ! 三年前!」
関「開けるなよおい~」
学「え?」
関「もう返品できないだろ……」
学「え、ええっ?!」
関「お前が悪いんだからな、諦めろ」
学「ええっ、なんだよそれ、なんだよぉっ!」
香奈「なんだよじゃないでしょ、せっかく買ってきてもらったのにその態度はなに?」
学「だってこんなのいらないもん!」
   ゲームを壁に投げつける学、ケースが割れてディスクが飛び出る。
文子「あっ……」
香奈「こらなにやってんの!」
関「おい学! お婆ちゃんに謝れ!」
学「やだ、知らない!」
   駆けていく学、二階に上がる音。
香奈「もうあの子は!」
   香奈がケースとディスクを拾う。
香奈「ごめんなさい、叱っておきますから」
文子「いや、いいけども、それより新しいの買ってやった方が……」
関「いいんだよ放っておけば。もうちょっとは我慢も覚えないといけないんだよ」
香奈「はい、本当にお気持ちで十分ですから」
文子「そうかい? そう、そう…………」
   文子は大きく息を吐き、悲しげに床の上の包装紙を見る。

 

〇関家・リビング(夜)
   香奈が電話をしている横で学がゲームをしている。
香奈「はい、はい……あ、学ですか? はい、今ゲームしてますけど……あ、ちょっと待って下さいね。学、お婆ちゃんが学と話したいって。学」
学「…………」
香奈「学っ」
学「今忙しいの!」
香奈「忙しくないでしょ、いいから出なさい!」
文子の声「あ、香奈さんいいから、いいから、聞こえたから、聞こえたから…………」

 
〇関文子宅・居間(夜)
   背中を丸めて受話器を握っている文子。
   窓向こうの庭では落ち葉が舞っている。

 

〇小学校・三年二組教室
   鈴木達也(9)と斉藤哲(8)が話込んでいる、生徒達は冬服で、哲はマフラーを巻いている。
   学が教室に入ってきて二人に気が付く。
学「あっ!」
   笑顔で二人の下へと駆ける。
鈴木「どうしたんだよニヤけて」
学「遂に買って貰ったんだ、ほら!」
   ランドセルを開けゲーム『アイアンナイト3』を取り出す。
学「昨日誕生日でね、やっと買って貰えたの、やっとだよやっと、これで皆と遊べるよ!」
鈴木「あー、アイアン3かぁ……」
   鈴木は斉藤をチラと見る。
斉藤「アイアン3はなぁ、もうなぁ」
学「え?」
鈴木「ほら、もうモンスター集めコンプしちゃったしさ、やる事ないんだよね。それにほら、これ買って貰って」
   机の中から『キングアニマル7』を出す。
学「あ、キングアニマル7」 
鈴木「そ、俺も哲も買って貰ってさ、これめっちゃおもろいから! 学も買って貰えよ」
学「え、ええ……でもこれ買って貰ったから」
鈴木「あー、そっか、そりゃ残念だなぁ……」
   山根武(8)が通りかかる。
鈴木「あ、武、アニマル7どこまでいった?」
   二人は山根の元へと行く。
学「…………」
   アイアン3を手に呆然と見送る学。
美姫の声「あ、アイアン3だ」
   学、振り返ると近藤美姫(9)がいる。
美姫「いいなぁ、私も欲しいんだけど今2をやってるんだよね。3は当分買えないなぁ」
学「え、2? 2をやってるの?」
美姫「うん、お兄ちゃんのなんだけどやってみたら面白くって。でも昔のでしょ、誰ともモンスターの交換できないんだぁ」
学「あっ、あっ、あっ」
美姫「ん?」
学「僕持ってる、持ってるよ2、持ってる!」
美姫「へー、2も持ってるの? けっこうやった? ならさ、モンスターくれないかな」
学「あっ、あっ、あっ、これからやるんだよ」
美姫「え、これから? その3は?」
学「いいんだよまずは2からだよ!」
美姫「まあそれはそうかもだけど……。へー、そっか、今からやるんだ……あ、ならさ、一緒にやろ? 私もまだ序盤だし、モンスター交換しあおうよ、ね? どうかな?」
学「あっ、あっ、うんっ、うんっ!」
   手を振って教室から出て行く美姫。
学「う、うへ、うへへへへ…………」
   いやらしい笑みを浮かべる学。

 

 

〇公園
   携帯ゲーム機を手にベンチに座っている学と美姫、公園は桜が満開。
   学は満面の笑みを浮かべている。 

 

〇関家・リビング(夕方)
   学が携帯ゲームを片手に入ってくる。
学「ただいまー! あっついよ外、汗だく!」 
香奈「おかえり。あのね、さっきね、電話があって、お婆ちゃんが」
学「あ、おばあちゃん? ああ、じゃあまた電話しよ! また今年も行くよって伝えたいし、そういえばありがとうも言ってなかったし!」
香奈「え、何の事? あのね、さっき電話があってね、お婆ちゃん亡くなったって」
学「……え」

 

〇文子宅、居間
   蝉の鳴声、学が仏壇の前に立っており、脇に骨壺、前に遺影が置かれている。
   鈴を鳴らし、手を合わせる。
   顔を上げ、遺影を見る。
   柔和な笑みを浮かべている文子の写真。
   口をへの字に曲げ、泣きそうに俯く学。

脚本「雨が降ってる。」

こんにちは。

今回の脚本は下記の掌編を脚本化したものとなります。

a674.hatenablog.com

脚本化のお手本のような作品ですね。惚れ惚れします。ええ。
よろしくお願い致します。
ちなみにいま人前に出しても恥ずかしくないかなと思えるものをカクヨムに纏めています。誰も来てくれず枕を濡らしているので是非是非お越し下さいませ。

小説(あしなむ) - カクヨム

 

【題材】 姉妹(兄弟)

タイトル:「雨が降ってる。

(人物)

永原歩(16)高校二年生
氷月鳴(14)中学三年生
氷月乃亜(14)(回想時)中学二年生

 

 

〇高校寮・外観
   雨が降っている。水溜まり。鮮やかな黄色の長靴が水溜まりを大きく撥ねる。

〇同・永原自室
   布団に寝転がりぼんやりと天井を見つめている永原歩(16)。雨音が響いている。
   ドアがノックされる。
永原「いいよ、入って」
   ドア開く。花とパンダ柄の子供っぽいレインコートに身を包んだ氷月鳴(14)が入ってくる。
鳴「やぁ、降ってるね外。びしょびしょだ」
永原「その割には楽しそうだね」
鳴「そう? 買ったばかりの長靴が履けたからかな。ほら」
   手に持つ長靴を見せる。鮮やかな黄色。
永原「鮮やかなイエロー」
鳴「そう、心躍るようなね」
   レインコートのボタンを外し始める。
永原「でもちょっと子供っぽくない?」
鳴「そうかな? そうでもないと思うけど。お姉ちゃんだって昔はよくこういうの履いてたし。あ、でも昔って事は子供っぽいのかな? まあいいじゃん好きなんだから」
   レインコートを脱いでしまう。   
永原「……どうでもいいけど傘にしたらいいのに。あのお気に入りの大人びた水色の傘はどうしたの?」
鳴「あんなのもう捨てちゃったよ、いつの話してるの? 今はレインコート派なの、雨を感じたいからね」
永原「雨を感じる?」
鳴「そう、雨を感じる。ねえ、レインコートと長靴ここに置いてもいい?」
永原「あ、うん」
   鳴、二つを玄関先に置く。
鳴「じゃあ、おじゃましまぁす」
   鳴、入って丸いちゃぶ台の前に腰を下ろす。永原、タオルを渡す。
   キッチンで紅茶をカップに入れ、渡す。
永原「煎れといたやつ。まだ熱いよ」
鳴「ありがと」
   鳴、紅茶を啜る。
鳴「あちっ!」
   舌を出してひいひい言う。
永原「大丈夫? 見つからなかった?」
   永原も腰を下ろす。
鳴「うん、見つからなかった。男子寮潜入ミッション、無事コンプリートしました」
   ブイ、と決めてみせる鳴。

   ×  ×  ×
   (フラッシュ)
   ブイ、と決めてみせる氷月乃亜(14)。
   決めてみせた後、照れて破顔する。
   ×  ×  ×

永原「…………」
鳴「……どうしたの?」
永原「……いや」
鳴「…………ふぅん」
   じぃっと永原を見つめる。
永原「髪、伸びたなぁと思って」
鳴「ああ、伸ばしてるもんね。だってあー君ロングのが好きでしょ?」
永原「え、そんな事ないよ」
鳴「いいよ知ってるから」
永原「いや、本当に」
鳴「じゃああー君覚えてる? 私が思い切ってショートにしてきた時、あー君ずっとぼんやりしてたんだよ? 二週間も。凄く挙動不審になってさ」
永原「…………いや」
鳴「お姉ちゃんと一緒にずっと伸ばしてたから、この際ショートにしてみようかなって思ってそうしたんだけど、あー君はさ、それを受け止めきれなかったじゃん。私だけの問題じゃないんだよこれは。あー君の為でもあるの。私と付き合うまでのあー君死んでたもん。私、あんなのもう見たくない」
永原「…………」
鳴「ねえねえ、後でお鍋食べよう? あー君とはまだお鍋つついたことなかったよね?」
永原「鳴」
   鳴を見据える。
永原「ねえ鳴、そういうのはよくないよ、よくない。僕が好きなのは鳴であってあいつじゃないんだから、あいつはもういないんだから、だからいいんだよそういうのは。鳴は鳴らしく僕と一緒にいてくれよ」
鳴「ありがと。でもいいから」
永原「ねえ鳴」
鳴「だってあー君私にキスする時お姉ちゃんにキスするつもりになってるでしょ?」
永原「…………なに言って」
鳴「ほら即答できなかった」
   鳴、紅茶をズズズッと啜る。
鳴「あちっ!」
   舌を出してはあはあ言う。

   ×  ×  ×
   (フラッシュ)
   紅茶を啜る乃亜。
乃亜「あちっ!」
   舌を出してはあはあ言う。
   ×  ×  ×

永原「…………」
鳴「いいよ、知ってるから。似てるもんね私達、本当にとってもよく似てる。でも嫌じゃないんだよ、私、お姉ちゃんの事大好きだったし、お姉ちゃんの事が好きなあー君も大好きだったから」
永原「…………そんなの」
   目を伏せる永原。
   鳴、永原に寄り添い頭を肩に乗せる。
鳴「私はいいもん、あー君が、求めてくれるなら……」
永原「……鳴」

〇(回想)神社・大木の下
   緊張の面持ちの乃亜。永原。
乃亜「ね、ねぇ歩……」

〇(回想)神社・大木の下
   緊張の面持ちの鳴。永原。
鳴「ねぇ、あー君……」
   唇をキュッと噛む。まっすぐ見据えて。
(鳴に乃亜の姿が重なって)
鳴・乃亜「私と、付き合って下さい。」

〇(回想終わり)高校寮・永原自室
永原「…………ごめん」
   鳴、少し寂しげな顔で。
鳴「……やめてよ」
永原「…………」
鳴「…………よしっ!」
   膝を叩いて立ち上がる。
鳴「さて、じゃあ鍋の材料買ってこようかな。ちょっと待っててねあー君、すぐ戻るから」
   永原、立ち上がり。
永原「僕も行こうか?」
鳴「いいよ雨なんだし。一人でいいよ」
永原「そう? なんだか悪いな」
   鳴、レインコートのボタンを留めながら。
鳴「あー君は雨音でも聴いてうとうとしてて。膝を抱えて、まるでお母さんのお腹の中にいるみたいに」
永原「なにそれ」
   長靴を取り。
鳴「雨の日の二度寝こそ至福だよ。ばいばい」
   ドアを開ける鳴。左右を確認し、走る。
永原「…………」
   永原ドアを閉め布団に寝転がる。雨音が響く。
   目を瞑り、大きく息を吐く。

〇同・階段前
   廊下を曲がった所で立ち止まる鳴。
鳴「………………すん」
   俯いて目をこすり、小さく鼻を鳴らす。

〇(回想)住宅街
   雨降りの中、永原(14)、乃亜(14)、鳴(12)が歩いている。乃亜は花とパンダ柄の子供っぽいレインコートに身を包み、鮮やかな黄色の長靴を履いている。鳴は大人びた薄い水色の傘をさしている。
乃亜「えいっ!」
   ジャンプして水溜まりを跳ね上げる。
鳴「もう、お姉ちゃん子供っぽい~」
乃亜「そう? いいでしょこれ。ほら、このレインコートに長靴、似合うでしょ? この鮮やかなイエロー、心躍らない?」
永原「似合うけど、レインコートだと顔にかからないか?」
乃亜「フフッ」
   手で顔を拭う乃亜。
乃亜「いいの、これで。雨を感じたいからね」
永原「雨を感じる?」
乃亜「そ、雨を感じる。傘よりレインコートの方が雨をいっぱいに感じられるでしょ?」
永原「はぁ?」
鳴「もう、また変な事言って……普通に傘にすればいいのに」
乃亜「いいの! レインコートの方がウキウキするんだから!」
   笑顔で空に手を広げてクルクルと回る。
永原「ウキウキって」
鳴「こんな雨なのにウキウキなんてしないよ」
永原「俺も、晴れのがいいけど……」
鳴「ね」
永原「うん」
乃亜「もう、雨を楽しもうっていうこの気持ちがわからないの?!」
   苦笑する永原と鳴。

〇(回想終わり)高校寮・永原自室
   目を開いている永原。布団の上膝を抱え丸くなっている。雨音が響いている。
永原「…………っ」
   ギュッと目を瞑り、一層丸くなる。
  
〇高校寮・外観
  雨が降っている。水溜まりに撥ねる雨。

カクヨムに小説を投稿しました。

以前どこぞにアップしていたものが消えていたのでカクヨムに再掲しました。

その時はかなり好評だったので質は悪くないと思います。

全国に一万人はいると思われる僕の熱心なファンの皆様方におかれましては既にお読みになられた事があるかもしれません。ごめんね。

よろよんきゅー

 

カクヨムサイト → 

kakuyomu.jp

脚本「氷湖にて」

スリル満点、ハラハラドキドキのお話です。

 

【題材】湖

タイトル:「氷湖にて

(人物) 
福山藤治(65) 無職
福山早苗(64) 無職
通行人A
通行人B

 

○湖
   一面凍り付いた湖、福山藤治(65)と福山
   早苗(64)が公道から歩いてくる。
   福山は手バネ竿を持っている。
福山「いやぁ~誰もいないぞおい! こんな景色を独り占め、贅沢だなぁ!」
早苗「でも、誰もいないって事はやっちゃだめって事なんじゃ……」
福山「そんな事ないだろ、別にいいだろ」
早苗「またそんな事言ってぇ……。危ないから調べて人がいる所にしましょ」
福山「危ない? 危ないってなんだよ、別にワカサギ釣るだけだろ」
早苗「危ないわよ冬の北海道なんだから……」
福山「あ~いつも煩い奴だなぁ。旅先で開放感に浸るってのがわかんないのかよ。ほらバッグ持ってろ、ポイント探してくるから」
早苗「あっ」
   バッグを早苗に押しつけ歩いて行く。
早苗「全く、いつも自分ばっかりで、私の意見なんて聞いてくれないんだから……」
福山「あ? なんだって?」
早苗「なんでもない!」
福山「いやぁ、しっかし寒いなぁここ! 冬の北海道ってのはこんななんだなぁ。香も凄い所に嫁いだもんだよおい。こんな所で、どんな孫が育つかなぁ……」
早苗「…………」
福山「さみぃい!」
早苗「ねぇ、でもどうやって穴空けるの?」
福山「え?」
早苗「だって、手じゃ無理でしょ氷」
   福山、足下を見る。
福山「……ああ、そうか、ドリル……」
早苗「ドリルがいるの? ほらぁ、何も準備しないからぁ」
福山「してるだろうがこの竿」
早苗「ねぇ、もうやめた方がいいって。ね、やるなら他の所で」
福山「…………」
   福山、周囲を見回す。
福山「あっ、ほらあそこ!」
早苗「え?」
福山「あそこ穴空いてるだろ! 誰かやってたんだよ、いやぁ有り難いなぁおい!」
早苗「ちょっ!?」
   構わずに駆けていく福山。
   早苗、大きく息を吐き後を追って歩く。
早苗「定年して毎日二人きり、香もいないし、ずっとこれが続くの……?」
   早苗、立ち止まり大きく目を見開く。
早苗「あっ?!」
   福山、足下の氷が割れ湖に落ちる。
早苗「ちょっ、あなたっ!?」
   駆け出す早苗。
   福山、水から這い出ようとするが氷が割れてまた落ちる。
早苗「もう何やってるのよぉ!」
福山「ちょっ、バッ、来るなっ! 来るなっ!」
早苗「来るなじゃないでしょちょわっ?!」
   早苗、足下の氷が割れ湖に落ちる。
福山「早苗っ!」
   早苗、手をバタバタさせる。
早苗「あっ、あっ、あっ!」
福山「落ち着け、いいか落ち着けよ早苗!」
早苗「あっ……あっ…………」
福山「ゆっくり、ゆっくり氷に掴まれ、脆くなさそうな所に!」
早苗「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」
   早苗、ゆっくりと移動し氷に掴まる。
早苗「はぁああああっ、はぁあああああっ」
福山「よし、いいぞ、よくやった、よし……」
早苗「あなたぁ……」
福山「いいか、そのままだぞ、いいか!」
   早苗、大きく何度も頷く。
   福山、氷を伝いゆっくりと早苗の隣に。
   早苗、抱きつこうとする。
早苗「あああああっ!」
福山「馬鹿掴むな! 沈むだろっ!」
   早苗、ハッとして手を戻す。
早苗「人、人を……」
福山「人……」
   福山、周囲を見回す。誰もおらず、湖は木々に囲まれ公道も遠い。
福山「こりゃあ……」
早苗「誰かぁ! 誰かぁ!」
福山「…………」
早苗「誰かいませんかぁっ!」
福山「やめろ、体力がなくなる」
早苗「ええっ!?」
福山「こんなとこすぐに凍えて力がなくなる。ちょっとでも温存しろ」
早苗「でもっ、だったらどうやって……!」
福山「俺が、出る」
早苗「ええ?」
   福山、移動しつつ氷を叩いたり掴んだりする。
福山「この辺りなら……」
早苗「さっき割れてたじゃない!」
福山「今度は大丈夫だ……ふんっ!」
   福山、氷に付いた手に力を込めて体を持ち上げる。
   手元の氷が割れて湖に顔から落ちる。
早苗「あっ!」
福山「ぶはっ! くそっ!」
早苗「ちょっ、ねぇどうするのよ!」
福山「どうするって出るしかないだろ!」
早苗「割れるじゃない、どうやって出るのよ!」
福山「割れないとこ探すんだよ!」
早苗「割れないとこってどこよ!」
福山「だから探すんだよ!」
早苗「もうなんでこんな事にぃ…………」
   早苗、顔を歪めて泣き始める。
早苗「あなたが、あなたがこんなとこ……止めたのにぃ…………」
福山「…………」
早苗「だからやだって、やだって言ったのにぃ…………なんでいつもそうなのぉ? もうやだぁ……あああああ…………」
福山「…………すまん」
早苗「すまんじゃないわよ! どうするのこれ、死んじゃう、死んじゃうのにぃっ!」
   氷に突っ伏して泣きだす早苗。
   福山、俯き、呟く。
福山「人なんていない、上がるしかない……」
   福山、唇を噛む。氷を叩きながら進む。
福山「ううう……」
   震える手を見る。また進む。
   止まり、氷の上に手を付き少し体を持ち上げてみる。
福山「ここだ。早苗!」
早苗「えぇ?」
福山「ちょっと来てくれ!」
   早苗、ゆっくりと移動する。
早苗「もう、なんか、感覚が……くらくらして……人を…………人……」
福山「人なんていない……それよりほら、この辺りの氷は丈夫そうだ。湖の中心は薄いんだ、ここなら大丈夫だ……」
早苗「私、上がれない……」
福山「俺がやる……絶対やるから、助けるから、俺のせいなんだから……」
早苗「ええ……?」
福山「体力使うな、助かるものも助からなくなる。体力ないんだから、お前は……」
   福山、全身が小刻みに震えている。
   顔は青ざめ息も震えている。
   早苗の頭に手を乗せて微笑む。
福山「いつも通り、俺に任せろ」
早苗「…………藤治さん」
   福山、氷に手を付く。
福山「いくぞぉ、せぇえええええのおっ!」
   体を持ち上げ足を氷に乗せようとする。
福山「くっ、服が重いっ!」
   早苗、咄嗟に背を押す。
早苗「頑張ってぇ! 頑張ってぇえええっ!」
福山「んんんんんががあああああああっ!」
   氷に付いた腕が震える。足が持ち上がり体が氷上に上がりそうになる。
   氷上に付いた手と腕が大きく震える。
早苗「もう少しっ! もう少しっ!」
福山「ぐぅうううううううっ!」
早苗「あっ!」
   福山、右手が滑り氷に鼻を打ち付け湖に落ちる。
福山「ぶはっ! ごほっ! は、はあっ、はあっ、はあっ、はああっ!」
   氷に掴まる、鼻血が滴る。
福山「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………」
早苗「……血が」
   放心している福山。
福山「う、うう、ううううっ…………」
   涙を零し始める福山。
早苗「…………ぁ」
福山「すまん、早苗、すまん、すまん…………」
早苗「…………」
福山「うわ、ああ、あああああああ…………」
早苗「…………」
   早苗、泣きそうに微笑み、そっと寄り添い手に手を重ねる。肩に頭を乗せる。
  
   目を閉じている早苗。
通行人Aの声「おお~いっ!」
早苗「…………ん?」
通行人Bの声「誰かいるんですかぁ~っ!?」
早苗「っ?!」
   早苗、ハッとして顔を上げる。
   遠くに通行人A、Bが見える。
早苗「くっ、かっ、かはっ!」
   声を出そうとして咳き込む。
   僅かに手を掲げて振る。
早苗「はっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」     
   顔を見合わせる通行人A、B。
通行人A「やっぱ人だ!」
通行人B「すぐ、すぐ救急連絡しますからっ!」
早苗「……っ!」
   満面の笑みを浮かべる早苗。
早苗「はぁ、ははっ、はぁ、はあああああっ!」
   早苗、笑顔で隣に顔を向ける。
   背を向けて浮かんでいる福山。

脚本「マザー、アザー、」

一般受けするんじゃないかと思われる作品です。
絶賛された名作です。

 

【題材】親子

タイトル:「マザー、アザー、

(人物) 
丸山恵(50) 主婦
田中安江(82) 恵の母
丸山聡(52) 会社員
榊優子(55) 主婦
橘栄美(55) デイサービス職員

○丸山家・台所
   包丁を持っている田中安江(82)、ネギと豆腐がまな板に置かれている。
   丸山恵(50)が台所に入ってくる。
恵「ちょっ、お母さん何やってるのっ?!」
安江「何って、ごはん」
恵「さっき食べたでしょ!」
安江「…………えぇ?」
   恵、包丁を取り上げる。
恵「もう、いいからあっち行っててよもう!」
安江「…………はぁ?」
   首を傾げ去って行く安江。
   恵、大きく息を吐いて包丁を見つめる。

○同・居間
   入ってきて座る恵、溜め息を吐く。新聞を読んでいた丸山聡(52)が舌打ちする。
丸山「家で溜め息なんてつくんじゃない」
恵「ええっ」
丸山「俺まで疲れてくるだろうが」
恵「だってぇ、本当に疲れてるんだもん……」
丸山「何が疲れてるだいつも家にいるくせに」
恵「ちょっとぉ、そりゃずっと家にいるけど、私だって好きで家にいるわけじゃ……それにほら、お母さん」
丸山「お母さんがどうした?」
恵「ねぇ、だから知ってるでしょ? もう駄目なんだって……ねぇ、やっぱり施設に」
丸山「またその話か」
   丸山、大きく息を吐き。
丸山「そんな余裕がどこにある? 翔だって奨学金貰って大学行ってるってのに」
恵「でもこのままじゃ……さっきだって包丁触ってて」
丸山「お前が目を離すからだろ」
恵「……えぇ」
丸山「お前なぁ娘だろ? お前の母親だろうが、お前が世話してやらなくてどうすんだよ」
恵「でもぉっ」
丸山「でもも糞もあるか、お前育てて貰った恩を忘れたのか。薄情だなお前は」
恵「……そんな言い方」
丸山「何言ったって施設には入れんぞ」
恵「…………」
   外からクラクションの音が鳴り響く。
恵「…………?」
丸山「……あっ、おい!」
恵「えっ? ……あっ!」
   恵、駆け出し、玄関から飛び出す。

○同・玄関先
   狭い道路でうずくまっている安江、目の前には車、困り顔のドライバー。
恵「お母さんっ!」
   駆け寄り肩に手をかける。安江、ビクッと震えて安江の顔を見て。
安江「ひゃっ、はぁああぁぁあっ!」
   頭を抱えながら家に駆け込む。
恵「…………」
   それを見送り、泣きそうな顔の恵。

○喫茶レインボウ
   テーブルについている恵と榊優子(55)。
   優子はストローでアイスコーヒーをかき回している。
優子「なるほどねぇ、そりゃ大変だわ」
恵「でしょ?! なのにあの人何にもわかってないんだから。何が家にいて疲れただって、私だって好きで家にいるわけじゃないのに、仕事だって、本当は続けたかったのに……」
優子「いやぁ、痴呆ってホント大変だよね。どうしてあんななっちゃうのかなぁ」
恵「優子はいいよね、ご両親心配なさそうで」
優子「ん? まあうちはね、今のとこは誰も。でも一緒に暮らしてるのがよくないよね」
恵「でも母さん、あんなんで一人にさせておけなかったし……」
優子「まあ、そりゃあね。じゃあ仕方ないんじゃない? 誰かが見てあげないといけないんだし、それくらいの親孝行はね」
恵「えぇ? ちょっとぉ、今大変ねって」
優子「いやそうだけど、でも施設入れないならしょうがなくない?」
恵「そりゃ、まあ……」
優子「自分の母親だしさ、そう考えれば我慢もできるでしょ」
   アイスコーヒーを啜る優子。
恵「……結局、わかってないんじゃない」
優子「ん?」
恵「なんでもない!」

○住宅街
   安江の手を引き歩いている恵。虚ろな表情でクマが凄い。溜め息を吐く。
   人気のない踏切にさしかかる。警報器が鳴り、立ち止まる。
恵「…………」
   ぼんやりと降りる遮断機を見つめる。

○(回想)踏切前
   女Aと談笑している安江(38)、側でスーパーボールを弾ませて遊んでいる恵(6)。
恵「あっ」
   掴み損ない、踏切内に転がっていく。後を追い周囲を探す。
   警報機が鳴り、遮断機が降りる。
   探すのに夢中の恵、話に夢中の二人。
恵「あったっ」
   レールに嵌まったボールを見つけ、駆けて拾い上げる。笑顔の恵。
   鳴り響く警笛、恵、振り向く。
   電車が迫ってきている。
   恵、その場にへたりこむ。響く警笛。
   安江、ハッとして振り向く。
安江「恵っ?!」
   動けない恵、視線だけ向ける。 
   電車、急ブレーキをかけ音が鳴り響く。
   安江、地面を蹴り上げる。
安江「恵ぃっ!」
   目前まで迫った電車、恵、目を瞑る。
   恵に覆い被さる安江。
   電車、ブレーキ音を響かせすんでのところで止まる。
恵「…………お母さん?」
   恵、安江の胸から顔を離して見上げる。
安江「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
   恵を見据え、安堵の笑みを零し、
恵「あっ」
   恵をきつく抱きしめる。

○(回想終わり)踏切前
恵「…………ぅ」
   視界が歪み、膝に手を当てる恵。
栄美の声「……丸山さん?」
   振り返ると橘栄美(55)が駆けてきている。
恵「……あ、ヘルパーの」
栄美「はい、暁デイサービスの橘です。通りがかって、あの、どうかされましたか?」
恵「あ、すみません、ちょっとクラッと……」
栄美「酷い顔……ちゃんと休んでますか?」
恵「はぁ……」
   栄美、安江をチラッと見て。
栄美「安江さん、要介護3でしたっけ……」
恵「いえ、多分もう4じゃないかなと……」
栄美「進行、早いんですか?」
恵「もう、私の事もわからないみたいで……」
栄美「…………」
恵「娘なのに、忘れちゃうんですね」
栄美「認知症は、そういうものですから……」
恵「………………はい」
栄美「あの、お一人で抱えこまないで、ちゃんと周囲に助けを求めて下さいね」
   恵、ぼそりと。
恵「そう、できたらよかったんですが……」
栄美「え?」
恵「いや…………はい」
栄美「それとこれはコツみたいなものですが、あまり母だ子だと思わないで、いっそ他人くらいに思ってしまった方がいいですよ」
恵「え、他人、ですか?」
栄美「ええ、いるんです、親子だからって頑張り過ぎて介護鬱になってしまう人が。周囲も親ならやって当然と思いますし、それで本人も次第に追い詰められて……。だからあんまり親だなんだと考え過ぎないで、自分のできる範囲でやりましょう。いいじゃないですかちょっとくらい手を抜いても、それで周りに迷惑をかけても、ね」
恵「……他人、ですか」
栄美「まずはご自身の幸せですよ。……では」
   会釈をして立ち去る。恵も会釈を返す。
恵「…………」
   ぼんやりしている恵。
恵「…………他人」
   警報機が鳴り、降り始める遮断機。
   恵、大きく息を吐き、振り返る。
   安江が踏切に侵入している。
恵「ちょっ?!」
   迫ってきている電車、響き渡る警笛。
恵「おか、お母さんっ! お母さんっ!」
   安江、ゆっくりと振り向く。電車に気がついてへたりこんでしまう。
恵「ちょっ!」
   手を伸ばし、足を踏み出す。しかし立ち止まり、固まる。
恵「………………他人」
   急ブレーキをかける電車。
   安江、不意に恵を見つめる。   

   ×  ×  ×
   (フラッシュ)
   線路内、安江に抱かれた恵。安江を見上げる。安堵の笑みを零す安江。
   ×  ×  ×
恵「っ!」
   遮断機を押しのけ安江に覆い被さる。
   ブレーキ音が響き、すんでで止まる。
恵「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
   ぽかんとしている安江、恵を見上げる。
   恵、次第に顔が歪み、涙を浮かべ。
恵「ばかっ、お母さん、お母さん…………っ!」
   きつく抱きしめ、顔をうずめる。

脚本「ともだちの帽子」

 

「お見事です」 との感想を頂いた作品。ハートウォーミングな名作である。

 

【題材】帽子

 

タイトル:「ともだちの帽子

 

(人物)

春日彗(9) 小学三年生
木下俊(9) 小学三年生
春日拓人(39) 証券会社勤務
春日優奈(39) 靴製造業パート

 

 

○土手下(夕)
   草が生い茂る中を歩いている春日彗(9)と木下俊(9)、木下はNYロゴのヤンキース帽子を被っている。
   春日が興奮して前方を指差す。
春日「あっ! あっ!」
   木下も見る、大きなカマキリがいる。
春日「ちょっ、何かある?」
木下「えっ、何もないよ」
春日「その帽子は?」
木下「え、これ? いや、これはやだよ……」
春日「なんでっ! いいじゃん早くっ!」
木下「ええ…………」
春日「あっ!」
   カマキリが飛ぶ。春日は後を追う。
春日「ちょっ、早く早くっ!」
木下「いやだよぉ……」
春日「あ~もういいやっ!」
   春日、静かに近づき手を伸ばす。
   カマキリが小幅に飛ぶ。
春日「あっ、あっ、ちょっ!」
木下「あっ!」
   春日、咄嗟に木下の帽子をかっ攫いカマキリに覆い被せる。
春日「やった!」
木下「…………」
春日「おっしゃ! ほら、捕まえた!」
木下「…………」
春日「ちょっとここで待っててくれな、俺すぐ虫籠取ってくるから!」
木下「え? あっ!」
   駆けていく春日、見送る木下。
   木下は無言で帽子を見つめる。

 

○土手下(夜)
   帽子の側で立っている木下、虫籠を手に駆けてくる春日。
春日「俊、まだいるよな?」
木下「……たぶん」
春日「よしよしよしっ」
   ゆっくりと帽子を捲り上げる春日。
   カマキリを摘まんで籠に入れる。
春日「しゃ~っ、ほら見ろよこれ! こんなでかいのめったにいないぞ!」
   ムスッとしている木下。
春日「ん? どうしたんだ?」
木下「僕の帽子……」
春日「あ、ごめん。ほら」
   拾い上げて木下に差し出す。
木下「……いらない」
春日「は?」
木下「もうその帽子、いらない」
春日「……何言ってんだ?」
木下「どうして僕の帽子使うの? 嫌だって言ったじゃん!」
春日「だってそれはお前……しょうがないだろカマキリが」
木下「嫌だって言ったじゃん! なんで勝手に使うんだよぉ!」
春日「お、怒るなよ」
木下「なんで勝手に使うんだよぉ!」
春日「なんでって……いいだろ帽子くらい。それにこれ俺があげたやつじゃん」
木下「知らないよ! 知らない知らない! うっ、ううう…………っ」
春日「え、おいなんで泣くんだよ! ほら」
木下「もういいよ! いらないってばぁっ!」
春日「あっ」
   駆けていく木下、呆然と見送る春日。

 

○春日家・リビング(夜)
   食卓を囲んでいる彗と春日拓人(39)と春日優奈(39)。
拓人「それはお前が悪い」
彗「えぇ~なんでぇ」
拓人「気に入ってた帽子だったんだろ」
彗「でもあれ俺があげたやつだよ」
優奈「むしろだからじゃないの? 貰って嬉しかったのにあんたに雑に扱われたから」
彗「えぇ~、なにそれ」
優奈「彗だってプレゼントをまさにその人にぐちゃぐちゃにして返されたら嫌な気持ちになるでしょ」
彗「でも、だってカマキリが……」
優奈「いいから、明日謝っておきなさい」
彗「ううん、も~っ」
   彗の頭をポンポンと撫でる優奈。
   彗はむくれたままご飯を頬張る。

 

○市立第三小学校・三年二組教室
   春日が入ってきて自席に着く。
   窓際の席の木下の背中を見る。
春日「……よし」
   帽子を手に木下の元へと向かう。
春日「俊」
   木下は窓の方を向いて顔を向けない。
春日「俊、昨日は悪かったよ。ほら、洗ってきたからさ、受け取ってくれよ」
木下「…………」
春日「なあ、俺が悪かったよ。なんならカマキリ持ってってもいいからさ、でももし子供産んだら欲しいけど……ほら、帽子」
   グイグイと帽子を押しつける春日。
   木下に払いのけられる。
木下「いらないって言ったでしょ」
春日「……なあ、謝ってるのにそれはないんじゃないか? なんだよ帽子くらいで」
木下「帽子くらい?」
   木下、立ち上がり春日を睨む。
木下「帽子くらいって何さ。僕の帽子だよ」
春日「でも元は俺があげたやつだろ」
木下「でも今は僕のじゃないか!」
春日「だから返すって言ってるだろ、ほら!」
木下「もういらないってば!」
春日「あっ」
   木下、手を払い帽子は床に落ちる。
   春日、帽子を拾い上げて、
春日「あ~そうですか! もういいよっ!」
   春日、廊下へと出て行く。木下、腰を下ろして机に突っ伏す。
   呆然としているクラスメート達。

 

○春日家・リビング(夜)
   食卓を囲んでいる彗と拓人と優奈。
拓人「彗、友達にちゃんと謝ったのか?」
彗「……謝ったよ」
優奈「どうしたの?」
彗「謝ったけど、許して貰えなかったんだよ!ごちそうさま!」
   食器をシンクに置いて部屋を出て彗、二階に上がる足音が響く。
   二人は顔を見合わせる。

 

○土手上(夕)
   ランドセル姿の春日が道路側から階段を上り土手上の道へ出ると買い物袋を抱えた木下と遭遇する。木下は帽子を被っており傘も持っている。
春日「あ」
木下「あ」
   目が合うが、すぐにお互いに外す。
   木下が歩き出し、少し遅れて春日がその後に続く。
   強風が吹き、草木が揺れ川が波打っている。グラウンドには水溜まりがある。
   木下は帽子を手で押さえる。
   無言で歩く二人。
春日「んっ」
   突風が吹き、春日は目を瞑る。
木下「あっ!」
   春日の横を帽子が転がっていく。
木下「あっ、あっ、」
   木下、帽子を追いかけて春日の横を駆けていく。帽子は土手を転がり落ちる。
   木下、土手の坂を駆け下りる。
木下「うっ!」
   濡れた草に足を滑らせて尻餅を付く。
木下「あ、ああ……」
   帽子はグラウンドの方へ飛ばされる。
木下「えっ?」
   春日、木下の横を駆け降りていく。
木下「…………彗君」
春日「ほっ!」
   春日、転がる帽子に手を伸ばす。が、寸でのところで届かない。
春日「あ~ちくしょっ!」
   帽子を追いかけて走りながら前のめりになってまた手を伸ばす。
春日「ぅおっ?!」
   ぬかるんだグラウンドに足を滑らせて前のめりに倒れる春日。   
   帽子は飛んで川に落ちる。
春日「あ~…………」
木下「ちょっ、彗君!」
   木下、慌てて駆けてくる。
木下「ちょっ、何やってるのっ?!」
   起き上がる春日に手を貸す木下。
春日「何って、お前帽子が」
木下「でも、だって僕らは……」
春日「んなの関係ないだろ、帽子が飛んでっちゃったんだから」
木下「…………うん」
   春日、自分の泥だらけの服を見て、
春日「あ~、母ちゃん怒るよなあこれ……」
木下「僕も一緒に謝るよ。僕のせいだもん」
春日「え、いいの? おおサンキュー!」
木下「サンキューなんて……」
   二人は川に浮かぶ帽子を見る。
春日「もうちょっとだったんだけどなぁ」
木下「いいよ帽子くらい……ごめんね……あ りがとう」
春日「ん? ああ…………あっ!」
   春日、ランドセルからNY帽子を取り出して差し出す。
春日「ほら、これ」
木下「…………帽子」
春日「まあだからさ……代りに使ってくれよ」
木下「…………っ!」
   満面の笑みになって受け取る木下。
   夕焼けを背に照れ臭そうに頭を掻く春日。